うなぎをもっと楽しむコラム
浜名湖養鰻125年の最高傑作 新ブランドうなぎ「でしこ」
2025.02.19 | コラム

今回は、125年の歴史を持つ浜名湖養鰻場の技術を結集した最高傑作の新ブランド「でしこ」についての紹介です。指定された飼料を使い稚魚から出荷まで浜名湖地域で養殖するなどの定めた条件をクリアしたうなぎのみを「でしこ」と認定する新たなブランド「でしこ」。
でしこの特徴として、肉厚で柔らかく脂の旨みが感じられるのが特徴です。でしことは「(で)伝統を守り、(し)進化を続け、(こ)幸福を届ける」の頭文字を取り、地元で親しまれてきたうなぎの呼び方「めっこ」「しんこ」に響きをもたせています。
養殖うなぎは養殖過程で通常オスになりますが、大豆イソフラボンを含む飼料を使うなど新しい養鰻技術で肉厚で脂の乗ったメスに育つように改良しています。今回、3年前から浜松で一番最初にでしこの養鰻を始めた養鰻家、高橋さんにお話をうかがいました。
でしこ挑戦のストーリー
もともとは愛知県の三河で始まったメスウナギの養殖。当初はコストがかかりメスウナギの養殖をやる人はいなかったそうです。コストがかかってでも挑戦しようと決めたきっかけは、高橋さんが大学進学を機に東京へ行き築地で働いていた経験がターニングポイントとなっているといいます。
築地で働いていた当時、よい商品づくりをするいい生産者に仕事面はもちろん、人間的な部分に惹かれ憧れをもっていたそうです。自分自身もそのような人になりたいという強い気持ちをもったまま家業を継ぐことになり、当時の経験からどうせやるならいいものを追求したい、他人がやらないことを成し遂げることに価値がある。という考えのもと従来の養殖技術を変え、よりよいものづくりを決意しました。
その具体例として高橋さんの養殖場では他では運用していない路地池という池を使用しています。路地池とはハウスのような室内での養殖ではなく、通常の池(外の池)にうなぎを放流して養殖する方法です。生育期間が長いため長いうなぎができるという特徴があり、一定の価値が出るが温度管理の問題で病気のリスクが高く路地池を使用している養殖場はないといいます。
しかし、他の人がやっていないことをやるということに意義を持ち、その延長線上にでしこの挑戦があったといいます。一般的に冬~春にかけて国産うなぎは固いうなぎになりやすい特徴をもちますが、でしこはそうではありません。エサに含まれる大豆イソフラボンの影響によりメス化することで柔らかく脂の乗りがよいうなぎに育ちます。食べてみると今までのうなぎと全く違うとすぐに実感したそうです。
1年目で問屋さんから高品質との評価があり、人づてでその評判が広がっていきました。高橋さん自身が他の養殖場へでしこを勧めたことはなく、人から人へ伝わり他の養殖場でもでしこの取り組みが広がっていきました。

でしこの課題
メスウナギは成長が遅く、オスウナギと比べると1か月~1か月半ほど長く養殖に時間がかかります。ある程度大きくなると急激に成長するため出荷の時期が難しいのが今後の課題です。
また、浜名湖うなぎというそもそもブランド化されたものから新たなブランド「でしこ」が始まり問い合わせや注文が増えている一方、人気が高まりすぎるとでしこ以外のうなぎが売れなくなるかもしれないという懸念の声も上がっているようです。しかしながら、低迷期のうなぎ業界にとって新たな光となることは間違いありません。

生産者の思い
でしこ自身の品質をより高めるために、でしこになるための基準を高めに設定しているとのこと。生産者側からすると厳しい基準ですが、ただ美味しいだけでなく安全で安心できるうなぎを届けたいという思いで日々の作業に取り組んでいます。
また、持続可能な生産のために病気になりにくいエサの研究、開発を進めており、養殖技術の革新に積極的に取り組んでいますという、でしこに対する熱い思いを感じる言葉をもらいました。
生産者の思いをつなぐ架け橋へ
私たち販売店はただ商品を提供するだけでなく、生産者の思いもお伝えすることが直接お客様と関わる販売店の役割だと考えています。例えば、早朝から始まる作業・季節や気候に合わせた細やかな管理、そしてよりよい商品を届けたいという純粋な気持ちなど。
その思いも商品を通じてお客様に伝えていきたいと考えています。ただ美味しい、品質がよいというだけではなく、私たち販売店が生産者の背景を伝えることで、お客様がその商品に込められた努力や情熱を少しでも感じ取っていただければ商品の魅力がより深くお客様に届くことと思います。
新たな浜名湖うなぎのブランド「でしこ」。浜松の専門店として丁寧にお伝えをしていこうと思います。


この記事は私が書きました
井口 恵丞(いぐち けいすけ)
有限会社うなぎの井口 代表取締役
昭和63年創業、うなぎの白焼のみを販売する「井口うなぎ白焼直売」の2代目として平成8年に後を継ぐ。
以降、法人化、蒲焼やうなぎ関連商品の開発と販売、ビジネスコンテストや店舗の改善で受賞。国際的な味覚の審査機関、「国際味覚審査機構」でうなぎで初めて「優秀味覚賞」を受賞。
毎日うなぎをさばき、うなぎの良し悪しを確認することがを日課としています。